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ユニバーサルツーリズム研究会(仮)キックオフ記念講演【2024年7月18日開催】 ~ 三代達也「誰でも来たいと思えるまちに」

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昨今、ユニバーサルツーリズム(高齢や障がい等の有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめる旅行)への関心が高まってきているそうです。

岡山県でも、「地域のいろいろな企業がユニバーサルツーリズムについて共に考える場所を作ることで、障害者の有無に関わらず岡山にたくさんの人が来てくれるのではないか」との考えに賛同する人たちで、ユニバーサルツーリズム研究会(仮)が始動しました。

メンバーの一人から「聴覚障害のある高石さんも、岡山のユニバーサルツーリズムについて共に考えませんか」とお誘いいただいてキックオフ講演会に参加してきたので、その様子をレポートします。

ユニバーサルツーリズム研究会(仮)とは

ユニバーサルツーリズム研究会(仮)は、医療と介護の専門職による支援を住み慣れた自宅で受けながら療養する在宅療養者の外出支援を推進していくべく立ち上がった団体です。

看護師を募集している訪問看護ステーションや病院をつなぐ株式会社Cone・Xi(コネクシー)の高木大地(たかぎ だいち)が発起人、岡山交通株式会社の土江富雄(どえ とみお)相談役が会長となって始まった研究会で、初回は公共交通業、旅行業、介護事業など他業種のメンバーが集いました。

ユニバーサルツーリズム研究会(仮)キックオフ講演会当日のようす

2024年7月18日(木)は、岡山国際交流センター5階にある会議室を会場に午後6時30分から8時30分まで、車椅子トラベラーの三代達也(みよ たつや)氏によるオンライン講演会とグループワークがおこなわれました。

詳細は、以下の画像を確認してください。

ユニバーサルツーリズム研究会(仮)× 合理的配慮

私は聴覚障害があるので、少し早めに会場入りしてスタッフや手話通訳者と打ち合わせをします。

通常2時間の場合は手話通訳を2名派遣してもらいますが、この日の演者三代達也さんとは以前お会いしたことがあり、口の形や声質を知っていたため、三代さんの発言はZoomの自動字幕と私が持参したスマートフォンの音声認識アプリを使って読み取ることに。手話通訳のかたには、ワークショップの様子をメインに通訳してもらうことになりました。

車椅子の人が電車に乗るときにスロープが必要なように、聴覚障害者が音情報を理解するには視覚化された情報が必要になります。

車椅子の人が来るからと電車の全車両に今すぐ自動のスロープを付けることはありませんよね。多くは手動のものを駅員さんが用意します。

それと同じように、手話通訳も1時間に【2,150円×通訳者】が必要となります。

決して安い金額ではないので、どんな場面に通訳が必要か、通訳がつけられない場合には周りがどのような支援をするのか相談して決めました。

これは「合理的配慮」といって、今年(令和6年)4月から一般事業者も提供が義務化されているものです。

私も、今回のキックオフ講演会にどのように参加するかの「合理的配慮」を相談してこのイベントに参加することになりました。

ユニバーサルツーリズムについて研究するための集まり。実際の現場だけでなく、研究会の時点から「バリアフリーとは何か?」を共に考えてくれる人たちがここにいること、非常に心強く思います。

三代さんの講演が始まる頃には、学生から社会人まで老若男女問わず25法人33名が会場に集結。この日が初対面という人も多く、緊張感のあるなか、会がスタートしました。

ユニバーサルツーリズム研究会(仮)× 岡山に住んで良かった、来てよかったと思ってほしい

今回は、ユニバーサルツーリズム研究会(仮)のキックオフイベントということで、会長の土江氏から運営メンバーの紹介や本研究会がトヨタモビリティ基金のファイナリストに採択された事業であることが紹介されました。

岡山県内のUDタクシーの普及率が首都圏と比べて低いこと、中国地区では岡山県と山口県のみユニバーサルツーリズムセンターが開設されていないことに触れ、この日集った他業種で手を取り合ってユニバーサルツーリズムについて議論を進めていくために本研究会が発足したとのことです。

土江氏から「岡山に住んで良かった、来てよかったと思ってほしい」との話があったとおり、障害者や高齢者が住みやすい街は、巡りめぐって。どんな背景をもつ人にとっても「ここなら安心して定住できる、旅行できる」と思ってもらえる街とも言えるでしょう。

事業者にも合理的配慮の提供が義務化された今、岡山が喫緊の課題として取り組まねばならない課題であることが参加者と確認されました。

ユニバーサルツーリズム研究会(仮)× 三代達也氏「誰でも来たいと思えるまちに」

今回は初回ということもあり、車椅子トラベラーの三代達也氏に「誰でも来たいと思えるまちに」の演題で当事者視点での街の見えかたや、どんな体験をした街に「また行きたい」と思うのかをお話ししていただきました。

三代達也氏について

三代達也さんは、1988年に茨城県日立市で生まれました。

2006年にバイク事故で頸髄損傷になり、車椅子生活を余儀なくされました。手術やリハビリを重ねて、2011年に単身ハワイ旅行を経験し、日本よりはるかに進んだバリアフリーに触れ、海外旅行に関心をもちます。

その後、障害者雇用で勤めていた仕事を退職し、ロサンゼルス、オーストラリアへの短期移住を経て多くの人に海外におけるバリアフリー環境の魅力を届けるべく、車椅子単独世界一周を決意。約9か月間23カ国42都市以上を回り、世界一周を達成しました。現在は、沖縄県糸満市在住。

世界一周から帰国後は、車椅子トラベラーとして全国で講演活動をおこなっています。また、旅行会社と提携して国内外に赴き車いすで旅行しやすいツアー造成の監修に携わったり、【教育×旅】をテーマに学生の福祉教育に積極的に関わったりと、活動の幅を広げていっています。

当事者が求めているのは「希望になる」情報

三代さんは、車椅子ユーザーの当事者としてInstagramYouTubeなどのSNSで情報発信しています。そのような活動で、当事者から特に反響がある情報は、車椅子ユーザーだからできないと思われがちな露天風呂への入浴や旅先での心動く出会いのエピソードなどの実体験だそうです。

障害者は「ここは、自分にも行けるのだろうか」「同行者とともに楽しめるだろうか」と不安ばかりが先行し、なかなか外に出られない人もいます。一方で、良い経験ができた旅先やお店へのリピート率は2.8%。ではそのはじめの一歩はどのようにして決めているのか。それは、同じ当事者からの口コミです。障害のある仲間が「ここなら大丈夫」と太鼓判を押したスポットの信用度は、健常者が想像する以上に高いそうです。

たしかに、私たち聴覚障害者も「ここは身体障害者手帳の提示で割引があったよ」「ここは、音声だけでなく手話による案内があったよ」という情報があれば、そのサービスを受けることを目的に旅に出ることがあります。聴覚障害だけでなく車椅子ユーザーのような肢体不自由者も同じように旅先を選んでいると知り、思わず大きくうなずいてしまいました。

当事者が求めているのは「バリア」の情報

続いて三代さんは「事業者のかたには耳の痛い話かもしれませんが……」と前置きをして「バリアの情報も提供してほしい」と口を開きました。

観光系のホームページを見ると「こんなサービスがあります」という情報はあっても「ここは段差があります」のような情報はなかなか目にしません。

障害者は、外出先でも同行者や介助者に「どんな場面で助けを求めるか」まで考えて外出先を決めているので、どこにバリアがあるのか事前に把握できる方が安心だとのこと。また、障害の程度や必要な支援はその人によって異なるため、マニュアル通りの対応ではなく柔軟な個別な対応を求めたいとの話もありました。

当事者の本音に、会場中がさらに前のめりになっていきます。

あえて「バリア」を体験する取り組みの提案

最後に、ユニバーサルツーリズム研究会(仮)がこれから取り組めることとして「バリアを体験する取り組み」の提案がありました。

岡山県では、倉敷市美観地区で車椅子ユーザーと健常者が一緒になって美観地区の観光施設や飲食店を訪れることで、車椅子利用者に必要な支援を実体験と通じて学んでいく「車椅子街歩きイベント」が定期的に開催されています。

三代さんも5月に開催された車椅子街歩きイベントに参加しており、ユニバーサルツーリズムについて検討するのであれば、車椅子ユーザーの視点に立って街を歩いてみることで得られるヒントがたくさんあるだろうと提案してくださいました。

ユニバーサルツーリズム研究会(仮)× 岡山誘客のユニバーサルツアーを企画しよう

三代さんの講演を聴いて士気が上がった参加者たちで、後半はワークショップをしました。その名も「岡山誘客のユニバーサルツアーを企画しよう」。

講演にもあったように「障害者だから」と用意したプログラムではなくどんなお客さんが来ても楽しめるツアーを企画して、その企画を遂行する際に生じるバリアとその解決策について議論するワークショップです。

グループワークでは

・岡山県の遊覧船乗り較べツアー

・うらじゃ(岡山市で開催されている夏祭り)観光ツアー

・カップル向けの瀬戸内ツアー

・果樹園と絶景を巡るツアー

・マリンアクティビティ体験ツアー

のように、多彩なツアー案が発表されました。

三代さんからは講評で「どれも、僕たち当事者は最初から諦めそうなツアーばかりでとてもおもしろい!」と大好評。

最初は緊張感であふれていた会場でしたが、ワークショップを通して和やかな雰囲気へと変わってきたところで会は幕を閉じました。

ユニバーサルツーリズム研究会(仮)× 新たな出発

始動したばかりのユニバーサルツーリズム研究会(仮)だからこそ、どの参加者も「岡山のユニバーサルツーリズムをより良いものにしたい」という熱気であふれていて、ワークショップの案からも分かるように活気に包まれた集まりでした。

多職種のプロフェッショナルが集っているので「これならウチの団体が協力できそうです」などと具体的な話もたくさんあがっていたことが印象的です。

ユニバーサルツーリズム研究会(仮)としての成長はもちろんのこと、この場を通してつながった人同士が融合することでさまざまなチャレンジが始まりそうな予感のする、ワクワクがとまらない夜でした。

次回の研究会は、8月22日(木)を予定しています。「おもしろそう!」「参加してみたい!」という方は、こちらまでお問い合わせください。

一緒にワクワクできる仲間を、随時募集しています。

著者: 高石真梨子

手話と日本語で思考する、聴覚障がいのある倉敷市地域おこし協力隊。東北→九州→近畿と各地を転々としながら学生時代を過ごし、関東の特別支援学校で幼稚部及び小学部教諭を5年半。2023年12月から倉敷にて、「音のない世界と音のない世界の狭間で」をテーマに写真文章を紡ぐ日々。倉敷の今を伝えるWebメディア「倉敷とことこ」を拠点に執筆している